【1】『大江戸釣客伝』に物申す!

小説家の夢枕獏さんは、アウトドア野郎としても有名である。
それこそ世界中を回り、登山や釣りを堪能しているらしい。
その造詣の深さも良く知られた事だ。

そんな夢枕獏さんが、釣りを題材に小説を書いた。
しかも、時代物。

これはやはり、素通りする事は無理と言うものですね。

初版2011年。(文庫は2013年初版) 夢枕獏の小説である。

2014年2月 初稿

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筆者が何故、釣りと言う言葉に釣られてしまうのか?

今の世の中、実にさまざまなジャンルの趣味がある。
その中でも、定番中の定番のひとつが『釣り』であろう。

東西を問わず古来より、士大夫から庶民まで楽しんできたもので、
趣味の王道とも言えるのでは?

サラリーマンの世界に限って言えば、
ゴルフ、カラオケと並ぶ『サラリーマン3大余技』と言える。

大の大人が、アタリの瞬間は童心に帰ってしまうなど、
3大余技の中でも、最もピュアな部分を持っていると言えよう。

海に川にと、フィールドも広く、
同じ場所でも、狙う魚により釣り方も道具も異なる等、
遊び方は広くそして深い。

何よりも、3大余技の中で唯一アウトドアの遊びである点も見逃せない。

なんて書いてはいるものの、
筆者は、釣りというものには縁が薄かった。
お付き合いで、何度か竿を握った事がある程度で、
とても『趣味です。』なんて言えやしない。
が、興味は常にあった。

その興味の元になったのは、何なのか?

『カヌー犬ガク』と共に、川を旅する野田知佑さんのエッセイなんかが
影響しているのまもしれない。
(犬を飼い始めた理由のひとつは、間違いなくコレなのだが)

たまたま見たTVの釣り番組での、
あまりにも楽しそうなインストラクターの笑顔から、
興味を持ったのかもしれない。

子供の頃、海辺に住む叔父に連れられて行った、
磯釣りや堤防釣りの楽しい記憶からなのかもしれない。

今となっては、良く分からない。
しかしまぁ、いつも釣りに対する興味は心のどこかに存在していたのである。

実は過去、密かに釣竿を買った事も2度ほどある。
その2度とも、釣竿は1回だけ使われただけで、押し入れに仕舞われたままとなった。

それでも、自分の釣りに対する興味は薄れない。
今でも、数少ない趣味のひとつに加えたいと思っている。
出来れば、これからの人生を楽しむ為、持っていたいスキルだと考えている。

しかし、諸般の事情もあり、なかなか手に着かないというところが現実だ。

そんなこんなだから、本屋で『釣』の文字を背表紙に見つけると、
ついつい気になってしまう。

そしてたまたま、手に取ったのが『大江戸釣客伝』である。

釣り小説かと思ったら、大河小説?

小説『大江戸釣客伝』
その導入部は、映像的である。

絵師の多賀朝湖と俳諧師の室井其角は、
江戸前の海に舟を出して、キス釣りを楽しんでいた、

ふたりは、老人の死体を引っ掛けてしまう。
その死体に握られていた釣竿には『狂』の一文字が書かれていた。

ここでパーンと、竿に書かれた『狂』の字がUPになる。
ひと呼吸置いて、タイトル文字が浮かび上がり、
ジャジャジャーンと、バックミュージックが流れる・・・・・・・

そんな映画の一場面のような映像が浮かんで来るようなオープニングである。
実に、この小説のテーマは『狂気』である。
オープニングで堂々とそいつを宣言しているのである。

テーマは鮮明なのであるが、どういう話なのか説明するのはチト難しい。

『釣り』を題材にした小説で、『狂気』がテーマとなれば、
これはいわゆる『釣りキチ』の話だな・・・・・てな事になる。
まぁそうである。

江戸の釣り好き達を驚愕させた、謎の釣り手引書『釣秘伝百箇條』。
誰が書いたものなのか要として知れない。
追う、江戸の釣り好き達。
10年以上の歳月の後、『投竿翁』という人物にたどり着く。

話の筋は?・・・と聞かれれば、そんな風に言うしかないのだが、
それでは、この小説の1/100くらいしか説明出来ていない。

ひとつの話、ひとりの主人公を追って行く小説では無いからだ。

生涯100回以上『生類憐みの令』を発布した、独裁者吉宗の狂気。

庶民は、赤穂浪士の討ち入りを熱望するという形で狂気をあらわにする。
それを放置する幕府もまた、どうにかなってしまっている。

豪遊を続ける形で権力への反抗を続ける、朝湖。
命を削ってまでも酒を止めない、其角。
そんな江戸の粋人達の狂気。

最も不幸な男(著者後書きにそう書いてある)、
旗本・津軽采女もまた時代に翻弄されてゆく。

江戸時代に舞台を設定して、物語を書くのではなく、
元禄という抑圧された時代を借りて、狂気を描いている。
元禄という、ひとつの時代を書いてるのである。

という事は『大江戸釣客伝』は、時代小説では無く歴史小説と言う事になる。

でありながら、釣りのシーンは、詳細かつ躍動的であり、
何より、楽しさが良く伝わって来る。
時代に翻弄される登場人物達の、心のよりどころにもなってのが分かる。

ウンチクは、本物でなければ相手にされない。
ソコをきっちりと押さえている。
さすがに、『釣り師・夢枕獏』の作である。

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